会社で生成AIの利用ルールを作っても、現場の利用状況までは見えない――。
その実態を示す調査結果が公表されました。
2026年8月20日発売の『AI白書2026』に掲載された独自調査では、会社が公式に認めていないAIツールを業務で使った経験がある人は、課長以上の管理職で46.5%でした。係長・主任以下の一般社員の38.1%を上回っています。
注目したいのは、「管理職までルールを守っていない」と責めることではありません。
ルールを作る立場に近い管理職でも、会社の正式な仕組みだけでは仕事を進めにくいと感じている可能性があることです。
この記事では、AIに入力してはいけない情報や個別のセキュリティ対策には深入りしません。
なぜAI利用ルールだけではシャドーAIを防げないのか。管理職は、現場でどのようにルールを機能させればよいのか。
組織運営の視点から考えます。
シャドーAIとは?会社が認めていないAIの業務利用
シャドーAIとは、会社が公式に導入・許可していない生成AIサービスを、社員が業務で利用している状態です。
例えば、会社指定のAIではなく、個人で登録した生成AIを使って、文章の下書きや資料の整理を行うケースが該当します。
ここでの問題は、AIを使ったこと自体ではありません。
会社が「誰が、どの業務で、どのサービスを使っているのか」を把握できず、必要な支援や判断ができないことにあります。
『AI白書2026』の調査から分かる3つのこと
今回の調査からは、単に「未許可のAIを使う人が多い」というだけではない実態が見えてきます。
一般社員より管理職の利用経験が多い
会社公式でないAIツールを業務で使った経験は、課長以上の管理職が46.5%、係長・主任以下の一般社員が38.1%でした。
少なくとも今回の調査では、シャドーAIは一部の若手社員だけの問題ではありません。
管理職自身も、資料作成、情報整理、企画のたたき台などを早く進める必要に迫られ、公式外のツールを選んでいる可能性があります。
ガイドラインを整備した会社でも利用されている
全社共通のガイドラインを整備済みの企業でも、公式外AIツールの業務利用経験は46.9%でした。一部だけ整備している企業の50.0%と、大きな差はありません。
つまり、「ルールを作ったか」だけでは、現場の利用を十分に説明できないということです。
ルールが現場に追いついていないと感じている
全社的にガイドラインを整備した企業でも、45.1%が「ルールが現場の実態に追いついていない」と回答しています。
AIサービスや機能は短期間で変わります。作成時には十分だったルールでも、使える業務や接続できるサービスが増えると、現場の判断に合わなくなることがあります。
ルールは完成させて保管する文書ではなく、現場に合わせて運用するものだと考える必要があります。
なぜルールがあってもシャドーAIはなくならないのか
社員が会社のルールを知っていても、公式外のAIを使うことがあります。
背景として考えられるのは、次のような「現場とのずれ」です。
- 会社指定ツールで、必要な作業ができない
- 利用申請の手順や相談先が分かりにくい
- どこまでが禁止で、どこから相談できるのか曖昧
- 新しいAIを試したいときの手続きがない
- AIを使ったと話すだけで責められそうに感じる
この状態で禁止事項だけを増やすと、利用がなくなるのではなく、見えなくなる可能性があります。
管理職が確認したいのは、「誰がルールを破ったか」よりも、なぜ正式な方法では仕事を進められなかったのかです。
シャドーAIは、社員の知識不足だけでなく、正式な利用環境・申請方法・現場の業務がかみ合っていないサインでもあります。

会社のルールと現場の使い方が合っているかを確認することが大切です。
目標は「利用ゼロ」ではなく「把握して判断できる状態」
シャドーAIをゼロにする目標は、分かりやすく見えます。
しかし、厳しく禁止するほど、社員が利用を報告しにくくなることがあります。利用が表に出なければ、会社は正式なツールの不足や、ルールの分かりにくさにも気づけません。
そこで、まず目指したいのは次の状態です。
- 部署でどのようなAI利用の要望があるか分かる
- 未許可ツールを使った理由を確認できる
- 利用してよい範囲と、事前相談が必要な範囲を分けられる
- 相談した社員が一方的に責められない
- 現場の変化をルールや正式ツールの見直しにつなげられる
利用を完全に監視するのではなく、現場から情報が上がる仕組みを作る考え方です。
管理職が始めたい「シャドーAIを見える化する5ステップ」
大がかりな調査から始める必要はありません。まず自分の部署で、次の順番に確認します。
ステップ1.ツール名より「何に使っているか」を聞く
最初から「未許可のAIを使っていますか」と聞くと、社員は答えにくくなります。
「文章作成や資料整理で、AIを使いたい場面はありますか」
「今の正式ツールで、やりにくい作業はありますか」
と、業務上の必要性から確認します。
ステップ2.使った理由を分ける
未許可ツールの利用が分かったら、理由を整理します。
- 正式ツールに必要な機能がない
- 正式ツールの使い方が分からない
- 利用申請に時間がかかる
- ルールの対象だと知らなかった
- 相談先が分からなかった
理由が違えば、必要な対応も変わります。研修で解決する問題と、会社の仕組みを変えなければ解決しない問題を分けることが重要です。
ステップ3.利用場面を3つに分ける
すべてを「利用可・利用不可」の二つに分けると、判断に迷う業務が残ります。
部署内では、少なくとも次の3区分にします。
- 会社指定ツールで利用できる
- 利用前に担当部署へ相談する
- 現時点では利用しない
ここでは具体的な情報の入力基準を独自に決めず、会社全体のルールや情報管理部門の判断とそろえます。
ステップ4.例外を相談する入口を作る
新しいAIサービスや、これまで想定していなかった業務は必ず出てきます。
そのたびに現場が自己判断しなくてよいように、「誰へ、何を伝えて相談するか」を決めておきます。
相談時に必要なのは、複雑な申請書ではありません。
- 何の業務に使いたいか
- なぜ正式ツールでは難しいのか
- どのような情報を扱う予定か
- いつまでに判断が必要か
この4点が分かれば、担当部署も確認しやすくなります。
ステップ5.判断結果を次のルールへ反映する
同じ相談が何度も起きるなら、それは個人の問題ではなく、ルールや利用環境の見直しが必要なサインです。
相談を一件ずつ処理して終わらせず、次の改定時に「許可例」「相談例」「利用しない例」として反映します。
こうしてルールを現場の判断に使える形へ変えていきます。

利用実態を把握し、相談し、ルールを見直す流れを作ります。
部下へ聞くときは「使ったこと」から責めない
シャドーAIについて話すとき、最初の声かけで、その後の情報が集まるかどうかが変わります。
「会社が認めていないAIを使った人はいませんか」
と追及するより、次のように聞いたほうが、現場の困りごとを把握しやすくなります。
- AIを使うと早くなりそうな仕事はありますか
- 会社の正式ツールで困っている点はありますか
- 使ってよいか迷った場面はありましたか
- どこへ相談すればよいか分かりますか
問題がある利用まで容認するという意味ではありません。
早く報告したほうが問題を小さくできると伝え、事実を確認したうえで、情報管理部門などへつなぐことが大切です。
AI利用の具体的なリスクは別記事で確認する
この記事では、シャドーAIが生まれる組織上の原因と、ルールの運用方法に絞りました。
AIへ会社情報を入力する際の具体的なリスク、個人アカウントや共有リンク、権限設定、AIの誤回答などを確認したい方は、次の記事をご覧ください。
【情報セキュリティ10大脅威2026】AI利用のリスクが初の3位|管理職が確認すること
何を入力してよいか、匿名化や確認方法から知りたい方は、こちらの記事で詳しく整理しています。
ChatGPTに会社情報を入れて大丈夫?40代管理職が知るべき生成AIリスク
『AI白書2026』は会社全体の動きを考えたい管理職向け
シャドーAIへの対応を考えるには、個別ツールの操作方法だけでなく、企業のAI導入、ガバナンス、国内外の規制や技術動向を広く見る視点も役立ちます。
『AI白書2026』は、AI技術、企業動向、政策・規制、AIガバナンス、企業の活用実態などをまとめた白書です。今回紹介した独自調査の詳しい分析も掲載されています。
向いている人
- 2026年のAI動向を広く確認したい
- 自社のAI方針を考える材料が欲しい
- 技術だけでなく、企業・政策・規制の動きも知りたい
- 管理職としてAI活用の全体像を把握したい
購入前に知っておきたい点
- A4判・400ページで、入門書より情報量が多い
- AI初心者には難しく感じる章がある
- 試験対策や操作練習を目的とした本ではない
- 自分の業務に関係する章から読む使い方も考えたい
AIのニュースを断片的に追うより、企業を取り巻く変化をまとめて理解したい人に向いています。

注目のAI技術から企業動向、国内外の規制まで、2026年のAIを専門家が多角的に解説する一冊です。
出版社 : KADOKAWA
発売日 : 2026/8/20
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年4回の追加レポートを提供する会員サービスのお試し特典付き(予告なく終了することがあります)
※対象は公式では、「紙の書籍」であり初回購入者限定のようです。
基礎から学びたい場合は既存の資格記事へ
「AI白書は少し難しそう」「生成AIの基本用語から整理したい」という人には、生成AIパスポートの学習範囲を利用する方法があります。
ただし、生成AIパスポートの内容、向いている人、資格だけでは身につきにくい実務力については、別の記事ですでに詳しく整理しています。この記事では繰り返しません。
AI資格が管理職の昇格要件に|今から知っておきたい生成AIの学び方
選び方を短く整理すると、次のようになります。
| 知りたいこと | 向いている読み物 |
|---|---|
| 企業のAI活用、政策、規制、技術動向を広く知りたい | 『AI白書2026』 |
| 生成AIの基本から順番に学びたい | 生成AIパスポートの資格記事・公式教材 |
どちらも買う必要はありません。今の自分が「全体動向」と「基礎知識」のどちらを必要としているかで選びます。
まとめ|ルールは作った後の運用で差が出る
『AI白書2026』の調査では、課長以上の管理職の46.5%に、会社公式でないAIツールを業務で使った経験がありました。
さらに、全社共通のガイドラインを整備している企業でも公式外AIの利用経験は46.9%で、45.1%がルールは現場の実態に追いついていないと回答しています。
この結果から考えたいのは、禁止事項を増やすことではありません。
- 現場がAIを使いたい業務を把握する
- 正式な方法を使えなかった理由を確認する
- 利用・相談・利用しない範囲を分ける
- 新しい使い方を相談できる入口を作る
- 相談結果をルールの見直しへつなげる
管理職がすべてのAI利用を監視する必要はありません。
部下が隠さず相談でき、会社として判断できる流れを作ることが、ルールを現場で機能させる第一歩です。
今すぐやることは1つだけです。
次の打ち合わせで、「会社の正式なAIツールではやりにくい仕事はありますか」と一度聞いてみてください。

