「セキュリティ対策はされていますか?」
仕事中にこんな電話がかかってくると、少し身構えませんか。
顧客の情報は守りたい。でも、専門用語で説明されても、その機器が本当に必要なのか分からない。毎月の支払いが増えるなら、なおさら迷いますよね。
一方で、取引先から「当社を装ったメールにご注意ください」とお知らせが届くと、うちも何かした方がいいのかな、と気になります。
セキュリティ対策は、何を買うかを決める前に、知っておくだけでも判断が変わることがあります。
この記事では、小さなお店や個人事業の仕事に重ねながら、無料で見直せることと、必要に応じてお金をかけたいことを整理します。詳しい操作は、記事末尾の無料PDFにまとめました。
「うちには大した情報はない」と思っていたけれど
顧客の連絡先も、請求書も、仕事を続けるための大切な情報
美容室なら次の予約とお客様の電話番号。工務店なら、工事先の住所や見積書。通販なら、注文履歴と発送先。
どれも「機密情報」と呼ぶほど大げさには感じないかもしれません。それでも、知らない人に渡ったら困る情報です。
いつものお客様から「前と同じものでお願いします」と連絡が来て、過去の注文履歴を開く。請求先を確認して、担当者へメールを送る。
普段は何気なく使っている情報が、小さな事業の仕事を支えています。数十人分の名簿にも、一人ひとりとの取引や信頼が詰まっているのです。
情報が漏れることと、データが使えなくなることは違う
ここは、少し分けて考えたいところです。
データの予備があっても、外へ漏れた情報は取り戻せません。パスワードを厳重にしていても、故障で仕事が止まる心配は残ります。
何に困るのかが違えば、必要な備えも変わります。

ウイルス対策ソフトが入っていれば、大丈夫?
ソフトで備えられること、設定や使い方で備えること
「パソコンを買ったときに入れてもらったから、大丈夫だと思っていた」
そう考えるのは自然です。ウイルス対策機能は、不正なプログラムを見つけたり、その動きを止めたりするための大切な備えです。[7]
Windowsには標準の保護機能もあります。「何も買っていないから無防備」と決めつけず、今の保護状態や、使っているソフトの契約期限を確認するところから考えられます。
ただ、請求書を別の取引先に送ってしまうことや、漏れたパスワードでログインされることまで、それ一つに任せるのは難しいのです。
取引先の名前で「至急ご確認ください」とメールが来たら、忙しいときほど、いつもの連絡だと思って進みがちです。
差出人名だけでは本物と判断できないからこそ、普段の公式アプリや、以前から知っている連絡先で確かめる方法が役立ちます。メール内のリンクを使わず確認することで、偽のログイン画面へ誘導される危険も減らせます。
大事なのは、ソフトが守る範囲と、仕事の中で確認する範囲を知っておくことです。
「使わないときは電源を切る」だけでは残る心配
完全に電源が切れている間は、そのパソコンをネット経由で直接攻撃されるリスクは下がります。
でも、翌朝つけたときに、古いソフトの弱点や、すでに入った不正なプログラムが消えるわけではありません。メールやクラウドのアカウントも、パソコンを切っている間に使われるおそれがあります。
閉店後の電源オフと、更新やログインの保護。それぞれ、備えられる危険が違うのですね。

買い足す前に、今あるパソコンで分かること
後回しにしていた更新は、何のためのお知らせ?
見積書を送りたいのに、「更新して再起動」のお知らせ。「今それどころじゃない」と閉じて、そのまま忘れてしまう。そんな場面はありませんか。
更新には、新しい機能を加えるだけでなく、攻撃に使われる弱点を直す役割があります。[1]
「請求書を送り終えた後なら再起動できそう」と、仕事の区切りと結びつけておくと、後回しのまま忘れることを減らせそうです。
パソコン本体に加え、ブラウザーや仕事用ソフト、ウイルス対策機能の更新状況も判断材料になります。サポートが終了した製品は、更新のお知らせが出ないだけで安全とは判断できません。
いつものメールを守ることが、取引先を守ることにもつながる
仕事用メールと、普段の通販サイト。同じパスワードを使っていると、一方で漏れたものを、もう一方へのログインに試されるおそれがあります。[2]
仕事用メールが勝手に使われたら、自分の名前で取引先へ連絡されるかもしれません。自分だけでなく、相手にも関わる話です。

使い回しをやめることに加え、スマホの認証アプリなどで、追加の本人確認をする方法があります。これが「多要素認証」の一例です。[2]
顔・指紋認証や端末の画面ロックなどを使う「パスキー」も選択肢です。スマホをなくした場合の復旧方法まで分かっていると、安心して使いやすくなります。[3]
メールの宛先や共有設定にも、防げるミスがある
メールを書いていると電話が鳴り、戻ってすぐに「送信」。忙しいと、添付したファイルが本当にその取引先のものか、確認が抜けることもあります。
宛先と添付を見直す、共有相手を必要な人に限る。こうした確認で防げるトラブルもあります。
何かを買う前に、今使っている機能や設定の中にも、見直せる部分があるということです。
お金をかけるなら、「何に困るか」で選びたい

請求書や売上データを失いたくないなら、バックアップ
伝票を何枚も見返して、ようやく請求書が完成。「これで送れる」と思ったところで、パソコンが起動しなくなったら。
修理代も気になりますが、「今日中に送る予定だったのに」「どこまで入力したっけ」と、作り直す時間の方がつらいかもしれません。
別の保存先にデータの予備を残しておくのが「バックアップ」です。同じパソコンの中にコピーしただけでは、そのパソコンの故障には備えられません。
外付けSSD・HDDなどは、予備の保存先の候補です。大切なのは、買ったことより、必要なデータが保存され、実際に使えること。つないだままの予備も攻撃に巻き込まれることがあるため、保管方法にも意味があります。[4]
外付け機器を外して保管する運用なら、保存の完了を確かめてから安全に取り外します。感染が疑われるパソコンへ、無事な予備をつなぐことは避けます。
クラウドも、同期だけでは削除が反映される場合があります。過去の状態を戻せるかどうかが、選ぶときのポイントです。
顧客情報を持ち歩くなら、紛失への備え
会計事務所へ資料を渡す。別店舗でデータを使う。そんなとき、いつものUSBメモリをバッグに入れることもあるでしょう。
小さくて便利な反面、落としたことに気づきにくい道具でもあります。中身がそのまま読める状態なら、なくしたときに心配が残ります。
そこで候補になるのが、保存内容を読めない形にし、パスワードなどで解除して使う「暗号化USB」です。
暗号化は、落としたときに中身を読まれにくくする備えです。壊れたデータを戻したり、感染を防いだりする機能とは別なので、予備の保存先も必要です。
ただし、持ち運ばない人まで急いで買う必要はありません。相手を指定したクラウド共有で済むかなど、受け渡し方から考える余地もあります。
自分で管理しきれないときは、支援を頼む選択肢も
複数店舗の機器を管理する、取引先から対策状況の説明を求められる。事業の形によっては、専門家の支援が必要なこともあります。
「全部お任せ」の契約だけでなく、メールの保護やバックアップの初期設定など、必要な作業を相談する方法もあります。任せたい範囲が分かると、見積もりも比べやすくなります。
取引先が対策状況を確認する背景は、SCS評価制度と管理職が今から準備することでも紹介しています。
営業電話の「危険です」に、どう向き合えばいい?
自分の仕事の、どこに危険があるのか
専門用語が続くと、「分からないと言ったら、そのまま話を進められそう」と感じることもありますよね。
そんなときは、用語を全部覚えるより、「うちのどの機器・設定に、どんな問題があるのか」という具体的な説明が判断材料になります。
今ある対策との違いと、契約総額が判断材料になる
すでに入っているソフトでは足りない理由は何か。追加すると何に備えられるのか。防げないことは何か。
そこに初期費用、月額、契約期間、解約条件がそろうと、価格だけでなく、自分の仕事に必要かどうかを考えられます。

分からないことを、その場で決めなくてもいい
「必要な理由と見積書、契約条件を書面で送ってください。確認してから検討します」
このように、いったん持ち帰る返答もできます。営業電話だからといって詐欺とは限りませんが、確認できていない相手へ認証コードを渡したり、遠隔操作を任せたりするのは避けたいところです。
なお、突然の警告画面から電話を求め、有料サポートや支払いへ誘導するのは、サポート詐欺の手口です。警告音が鳴ったことだけで、感染した証拠にはなりません。[5]
必要な備えが分かれば、むやみに買わずに済む
更新のお知らせにも、メールの設定にも、データの予備にも、それぞれ役割があります。
仕組みが少し分かると、むやみに買い足すのではなく、自分の仕事に足りない備えを選びやすくなります。
分からない部分を相談する際も、「何か対策を」から「仕事用メールを守りたい」「請求書の予備を残したい」へ。聞きたいことが具体的になります。
事業のセキュリティについては、IPAの企業組織向け相談窓口の案内も確認できます。[6]
手元の設定を見てみたい方へ|無料PDF
「説明は分かったけれど、自分のパソコンはどうなっているんだろう」
そんなときに使えるよう、更新・メールの本人確認・データの保存先を確認する手順を、簡単に4ページのPDFにまとめました。WindowsとMacは別ページなので、自分が使う方だけ読めます。
買うかどうかを決める前に、「今あるものは、どうなっているか」が分かる。その知識が、必要な備えを選ぶ手がかりになります。
参考資料
確認日:2026年11月1日
[1] IPA 情報セキュリティ6か条
[2] IPA 不正ログイン対策特集
[4] IPA 中小企業のためのセキュリティインシデント対応の手引き
[5] 警察庁 サポート詐欺対策

