「次の契約更新は大丈夫かな」。毎月の集計表を開きながら、そんな不安が頭をよぎる。けれど、その集計を少しでも早く終わらせたくて、AIにも興味がある――。派遣で事務の仕事をしている人にとって、AIは気になる道具であり、仕事の先行きを不安にさせる存在でもあります。
2026年9月18日に発表されたマイナビの調査では、派遣社員の49.8%が業務で生成AIを利用していました。オフィスワーク・事務では64.7%。一方、同じオフィスワーク・事務の44.8%は「AIの進化によって自身の仕事が減少する不安がある」と答えています。使う人が増えているのに、仕事が減るのも怖い。 この二つは矛盾しているようで、同じ現場の現実です。※1
では、AIで派遣の仕事はどう変わるのでしょうか。この記事では、減りそうな作業と、人が担える仕事を具体的に分けて考えます。正社員を目指す人にも、派遣の働き方を続けたい人にも、今日から取れる一歩があります。
AIで派遣の仕事はどう変わる?減りやすいのは繰り返しの作業
メールの定型文を作る。会議メモを短くまとめる。表のデータを転記する。毎月同じ形の資料を作る。こうした仕事は、生成AIやExcelの自動化で短くできる場合があります。派遣事務の仕事と重なるため、不安を感じるのは自然です。
ただし、作業時間が減ることと、雇用がそのまま減ることは同じではありません。 会社によって、浮いた時間を別の業務に使うこともあれば、仕事の進め方や人員を見直すこともあります。マイナビ調査でも、生成AI利用者の23.0%がAIによって業務量が「減った」と回答しています。これは仕事の中身に変化があることを示しますが、派遣契約が23.0%減ったという数字ではありません。※1
気になるのは、その「浮いた時間」で何をするかです。
毎月の集計が早く終わったら、その先に何ができる?

例えば、営業事務の人が月末に各担当者の売上データを集める仕事を想像してください。これまではファイルを開き、列をそろえ、Excelで集計し、報告用の表に貼り付けていたとします。
Power Queryなら、決まった形式のファイルの取り込みや整形、集計を繰り返し実行できる場合があります。生成AIは報告文の下書きに使えるかもしれません。そのとき人に残るのは、数字の確認です。「先月より売上が下がったのは、入力漏れか、実際の変化か」。異常値を見つけ、原因を担当者に確認し、相手に伝わる形で報告する。さらに、次回の集計でミスが起きにくい方法を提案することもできます。
入力する人から、数字を確かめて改善につなげる人へ。 これが、AIや自動化を仕事の幅につなげる一例です。もちろん、この例は考え方を示す仮のケースで、誰でも同じ仕事を任されるという意味ではありません。
「AIに作らせた資料を、そのまま出す」だけでは価値を示しにくいでしょう。数字の根拠を確かめ、相手が判断しやすい形に直せるかが大切です。
派遣と正社員の仕事の境界は薄くなる? 可能性と限界
AIで派遣の仕事の幅が広がる可能性はありますが、契約範囲まで自由に変わるわけではありません。
これまで職場によっては、派遣社員が入力や集計を担当し、正社員が分析や改善案を考える、という分担がありました。AIが資料の下書きやデータ整理を助ければ、派遣社員が分析の入口に立ったり、改善を提案したりする機会は増えるかもしれません。派遣だから発想まで止める必要はありません。
ただし、AIを使えれば、契約外の仕事まで自由に引き受けられるわけではありません。 派遣には契約で定めた業務範囲があり、会社の情報管理ルールもあります。担当業務を広げたいときは、派遣先の担当者と派遣元の双方に相談してください。顧客情報や社内資料を、許可のないAIサービスへ入力しないことも基本です。2026年の調査では、生成AI利用者の26.7%が派遣先の利用ルールを明確だと思わないと答えています。※1※5
もう一つ、変化を「良いことばかり」と考えないことも大切です。同じ調査で、生成AI利用者の30.0%は、自分で判断する機会が「減った」と回答しました。AIを使うだけで、自然に考える仕事が増えるわけではないのです。どの数字を信じるか、誰に確認するか、何を改善すべきか。そこを手放さない使い方が必要です。※1
この変化は、雇用形態だけの話でもありません。AIで職種の壁がどう変わるかを考えた記事でも、肩書きにとらわれず、何を改善できるかという視点を取り上げています。
「正社員だから安心」「派遣だから不利」と決めつけない
仮に、毎月5時間かけている集計を、手順を見直して2時間で終えられるようにした人がいたとします。その人が派遣社員であっても、改善の成果には価値があります。逆に、正社員であっても、作業を続けるだけで仕事の価値を示すのが難しくなる場面はあるでしょう。
もっとも、時間を短くした数字だけで評価が決まるわけではありません。正確さ、業務知識、周囲との連携、任されている責任も大切です。「私はAIが使えます」より、「集計の手順を整理し、確認しやすい表に変えました」のほうが、職場にも次の応募先にも伝わります。
派遣から正社員になる道はある。でも、AIスキルだけでは決まらない
「今の派遣先で正社員になれたら」と考える人もいるでしょう。マイナビが2024年に行った別の調査では、派遣先や派遣元から正社員化の誘いを受けた人が32.6%、自分から申し出た人が8.0%でした。そして、自分から申し出た人のうち、正社員化した割合は49.1%。正社員経験がなく、自分から申し出た人に限ると67.5%でした。※2
67.5%は、派遣社員全体の正社員化率ではありません。 「正社員経験がなく、実際に申し出た人」という限られた集団の数字です。2024年の調査であり、2026年のAI利用と正社員化の関係を示したものでもありません。
正社員化には、本人の希望や勤務実績、業務知識に加え、採用枠や会社の人員計画も関わります。AIの本を一冊読んだから採用される、とは言えません。それでも「毎月の集計にかかる時間を減らした」「ミスを発見しやすくした」という実績は、派遣元との面談や応募書類で具体的に説明できる材料になります。
最初から直接雇用を視野に入れたいなら、紹介予定派遣という別の選択肢もあります。これは一定期間、最長6か月の派遣就業と職業紹介を組み合わせる仕組みです。通常の派遣からの登用とは異なり、直接雇用は自動的に決まるものでも、必ず正社員になることを意味するものでもありません。求人の雇用条件を確認しましょう。※4
正社員にならない選択も、立派なキャリア設計
2026年のマイナビによるAI調査とは別の就労実態調査では、派遣社員の70.9%が現在の働き方に「満足している」と答えました。時間や働く場所、引き受ける責任の範囲を考えて、派遣を選ぶ人もいます。※3
だから、キャリアアップの行き先を一つに決める必要はありません。今の職場で担当業務と条件を相談する。身につけたスキルを生かせる別の派遣先を探す。専門性の高い仕事へ移る。直接雇用を目指す。自分に合う働き方を選ぶためにも、自分が何を改善できたかを残しておくことが役立ちます。条件が上がるかどうかは派遣元の評価や求人状況などによります。
「勉強しなきゃ」を、今の仕事一つに変える
学ぶ気持ちはあっても、帰宅後に長い講座を受け続けるのは簡単ではありません。パーソル総合研究所が2023年に公表した調査では、派遣社員の学習意欲は無期雇用社員と大きな差がない一方、78.0%が具体的な学習行動を「とくに何も行っていない」と回答。75.9%は直近1年間に企業研修を受けていませんでした。これは当時の調査であり、2026年現在の割合ではありません。※6
最初からAI資格や高額なスクールを目標にしなくて大丈夫です。まず、今週一番時間がかかった作業を一つだけ書き出してください。
- 毎月、複数のファイルを一つにまとめる → Power Queryを調べる
- メールや議事録、説明文を何度も書き直す → 生成AIの下書きと人の確認を練習する
- Excelの表を作れても、その数字を説明しにくい → 集計・グラフ・AIを使った問いの立て方を学ぶ
職場で使う前には、使用できるツールと入力してよい情報を確認しましょう。許可が出るまでは、個人情報や実データを入れず、架空の数字で練習できます。業務フローを見直す手順を紹介した記事も、改善する作業を選んだあとに読むと役立ちます。
たとえば「先月は4時間、今月は3時間。ただし再確認に30分かかった」と記録する。短縮だけでなく、確認に要した時間やミスの有無まで見ると、改善したかを確かめられます。本を読んだ冊数より、仕事に使える小さな実績を一つ作ることが先です。
本を選ぶなら、「今困っている仕事」から一冊だけ
以下は出版社の案内で内容を確認した候補です。手元のExcelの版、職場のAI利用環境、書籍の目次を確かめて選んでください。※7※8※9
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| 今の仕事で困っていること | 最初に見る本 |
|---|---|
| 毎月、複数の表をまとめる | Power Queryの入門書 |
| Excelの作業全体を短くしたい | Excelの時短とAI活用の本 |
| メールや資料の文章を作りたい | ChatGPTの入門書 |
毎月の集計を繰り返しているなら
『データ収集・整形の自動化がしっかりわかる Excel パワークエリの教科書』
きたみあきこ/SBクリエイティブ/ISBN 9784815624699
毎月、同じ形のファイルを開いてコピーしていませんか。繰り返す取り込みや整形の手順を学びたい人に向く一冊です。サンプルデータで練習できます。
購入前に: 文章作成が主な悩みなら優先度は低め。購入前に、手元のExcelでPower Queryを使えるか確認してください。
Excelの作業を広く見直したいなら
『テキパキこなす!エクセルの時短テク+AI活用術123』
尾崎裕子ほか/インプレス/ISBN 9784295024415
Excelは使えるけれど、いつもの操作に時間がかかる。そんな人が、基本的な時短テクニックからCopilotの活用例まで広く見直すための候補です。
購入前に: Power Queryを深く学ぶ本ではありません。AI機能は職場の契約や利用環境によって使えない場合があります。
メールや資料の下書きに困っているなら
『できるChatGPT 改訂2版』
清水理史ほか/インプレス/ISBN 9784295024262
メールの書き出しを考えるうちに、時間が過ぎてしまう。ChatGPTの基本操作から試し、下書きを頼む使い方を学びたい人向けです。
購入前に: Excelの定型集計を自動化する本ではありません。AIの文章は確認が必要で、業務データを入力できるかは職場のルール次第です。
本で試しても一人では手が止まる、添削や演習が必要、と感じてから講座を検討すれば十分です。今の仕事を一つ改善できるか、まず試してみましょう。
よくある疑問
AIで派遣事務の仕事はなくなりますか?
一律に「なくなる」とは言えません。入力、転記、定型文づくりなどの作業は短くなる可能性があります。一方で、確認、例外への対応、説明、改善には人が関わります。会社の業務設計によって影響は異なります。
40代・50代から学んでも意味がありますか?
あります。職場の数字の意味や、誰に確認すべきかを知っている経験は、AIの出力を確かめるときにも使えます。まずは今の仕事一つに結びつけて学ぶほうが、使い道が見えやすくなります。
AIを使えると、正社員になれますか?
AIの利用だけで決まることはありません。業務をどう改善し、どのような結果になったかを説明できるようにして、希望する働き方とあわせて派遣元へ相談しましょう。
まずは「任せてもらえる仕事」を一つ増やす
AIで派遣の仕事がすべてなくなるわけではありません。。ただ、入力や転記、定型資料づくりのように、人が繰り返していた作業は変わり得ます。その一方で、数字を確かめ、気づいたことを伝え、次の作業を改善する余地もあります。
「派遣だからここまで」と自分で線を引く前に、今の仕事で一つ困っている作業を選ぶ。 職場のルールと契約の範囲を確認し、練習し、結果を記録する。正社員を目指す人にも、派遣のまま条件を見直したい人にも、それは次の選択肢につながる一歩です。
- ※1 マイナビ「派遣社員における生成AI活用の実態調査(2026年)」(2026年9月18日) https://www.mynavi.jp/news/2026/09/post_54683.html
- ※2 マイナビ「派遣社員の意識・就労実態調査(2024年版)」および詳細レポート https://career-research.mynavi.jp/reserch/20240920_85134/ / https://career-research.mynavi.jp/wp-content/uploads/2024/09/80b77ba1d0f7a84c5115fdc233c38408-1.pdf
- ※3 マイナビ「派遣社員の意識・就労実態調査(2026年版)」 https://career-research.mynavi.jp/reserch/20260918_114616/
- ※4 厚生労働省「紹介予定派遣について教えてください」 https://www.startup-roudou.mhlw.go.jp/qa/zigyonushi/pato/q13.html
- ※5 厚生労働省「労働者派遣事業関係業務取扱要領」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/haken-shoukai/hakenyouryou_00003.html
- ※6 パーソル総合研究所「派遣社員のリスキリングに関する定量調査」(2023年) https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/data/haken-reskilling/
- ※7 SBクリエイティブ、Power Query書籍情報 https://www.sbcr.jp/product/4815624699/
- ※8 インプレス、Excel時短書籍情報 https://book.impress.co.jp/books/1125101152
- ※9 インプレス、ChatGPT書籍情報 https://book.impress.co.jp/books/1125101157

